クラゲ畑を守ろう! スポンジ・ボブ「Give Jellyfish Fields a Chance」訳詞比較



スポンジ・ボブ エピソード134「クラゲ畑を取り戻せ!」には、とても愉快な歌詞の挿入歌が2つあります。

そのうち、意味不明な単語の羅列と「僕が言いたいのは クラゲ畑を守ろう」というフレーズが癖になる「Give Jellyfish Fields a Chance」の原語詞と訳詞を見比べてみたいと思います。この曲は韻を多用した言葉遊びのような歌なので、翻訳は一筋縄ではいかなかったと思います。

なおこれ以降、記事の引用部分は「原語詞(Google翻訳結果)→ 日本語訳詞」の順に書かれています。Google翻訳結果に違和感を感じた場合などでは、適宜調整しています。


■サビの歌詞

最初に、何度も繰り返されるサビの部分を見てみましょう。
歌詞の中でほぼ唯一、クラゲ畑が直面している問題に対して直接的に意見を訴えている部分です。

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原語:All we are trying to say is give Jellyfish Fields a chance!
(私たちが言おうとしているのは、クラゲフィールドにチャンスを与えることだけです!)

訳詞:僕が言いたいのは クラゲ畑を守ろう

主張の内容はどちらもほぼ同じですが、「give a chance」と「守ろう」という若干の言い回しの違いがあります。もっともこの個所は本記事においては重要な部分ではないので、これ以上言及しません。


■1番の歌詞

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原語:Chum Bucket! Sludge bucket! Highway fly away!
(チャムバケット! 汚泥バケツ!高速道路が飛び去る!)

訳詞:エサバケツ 泥バケツ 高速バイバイ

ほぼ直訳です。「Highway fly away」の韻踏みを諦めていますが、これはエサバケツ亭店主の策略による高速道路建設に対抗するための歌なので、意味を通すことを重視したのでしょう。


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原語:Lily liver! Pizza giver!(ユリ肝! ピザを贈る人!)

訳詞:肝臓いいぞ ピザもいいぞ

いきなり原語詞が意味不明な感じになってきます。
「Lily liver」という熟語はなさそうなので、「lily-livered」を意識した歌詞でしょう。次の「Pizza giver」と合わせて韻を踏んでいます。
しかし訳詞では「liver(肝臓)」と「Pizza(ピザ)」だけを拾い、「いいぞ」で無理やり韻にしています。


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原語:Mashed potato! Kelp tomato!(マッシュポテト! 昆布トマト!)

訳詞:マッシュポテト 海藻トマト

この部分は直訳ですが、発音の都合で訳詞は若干韻が弱いです。Kelp tomato って何…?



■2番の歌詞

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原語:Ketchup bottle! Net and goggle!(ケチャップボトル! ネットとゴーグル!)

訳詞:クラゲ網と ゴーグル持って

さて問題の箇所です。いきなり「Ketchup bottle」の翻訳と韻踏みが放棄されてしまっています。映像でのケチャップのイラストも完全に無視されています。


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原語:Toll booth! Rotten tooth!(料金所! 腐った歯!)

訳詞:虫歯 痛い

問題の箇所その2。「Toll booth」は無視され、韻も踏んでいません。この1節を「む・し・ば、い・た・い」の6文字だけで終わらせてしまうなんて、とても大胆な翻訳だと思います。


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原語:Freeway plan! Toast and jam!(高速道路プラン! トーストとジャム!)

訳詞:高速だ ジャムパンだ

この部分はほぼ直訳です。その結果、韻は失われますが「~だ」という表現によって無理やり韻を踏んでいます。


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原語:Mermaid Man! Garbage can!(マーメイドマン! ゴミ箱!)

訳詞:マーメイドマン ゴミの缶

ここは直訳です。マンや缶は外来語なので、韻もそのまま据え置きです。


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原語:Citrus fruit! Combat boot!(かんきつ類の果実! コンバットブーツ!)

訳詞:すっぱいフルーツ いかしたブーツ

ここも同様にほぼ直訳&外来語で韻が継承されています。


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原語:Give a hoot! Gorilla suit!(やっつけろ! ゴリラスーツ!)

訳詞:フクロウに ゴリラ

韻踏みや正確な翻訳は放棄されたものの、訳詞は映像に合わせて処理されています。全体的に意味不明な歌なので、多少韻を踏んでいなくても違和感は少ないものです。
ちなみに「Give a hoot」の元ネタは、恐らくこれ↓です。なるほどフクロウだ。



■3番の歌詞

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原語:Plankton's eye! Ham on rye!(プランクトンの目! ライ麦のハム!)

訳詞:大きな目 目玉焼き

歌の語感を保つためでしょうか、「Plankton's eye」は「大きな目」と訳されました。この部分は訳詞では韻ではなくしりとりで処理されています。「Ham on rye」は映像からしてライ麦パンのハムサンドのことでしょうが、訳詞ではしりとりのために目玉焼きにされています。

ところで、看板の「CHUM is FUM!」は「ライバル店が大繁盛!?」でパトリックが考案したキャッチコピーです。まだ使われていたのか…。


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原語:Larry's thigh! Battle cry!(ラリーの太もも! 勝ち鬨!)

訳詞:ラリーの手 てんてこまい

ここは翻訳によって大幅に内容が変わっています。太もも→手、勝ち鬨→てんてこまい、です。ひとつ前と同様にしりとりで処理されています。なお映像は一瞬で気づきづらいですが、実はラリーの足を指しています。一方、「勝ち鬨」と「てんてこまい」は立場が異なる単語ですが、映像とはマッチしているので上手い訳だと思います。


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原語:Mustard squirt! Long-sleeved shirt!(マスタードの噴出! 長袖シャツ!)

訳詞:マスタード タキシード

マスタードとの韻を踏むために、「Long-sleeved shirt」はタキシードに変わりました。映像は明らかに単なるシャツですが。


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原語:Self assert! Hit the dirt!(自己主張! 土にぶつかる!)

訳詞:危ないぞ 逃げるぞ

ここの翻訳は原語と全く異なります。映像に合わせて「逃げるぞ」なのでしょうが、一方の「危ないぞ」の部分で2人は勇ましい顔をしているので、少しだけ違和感があります。


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原語:Krusty Krab! Smash-and-grab!(カニカーニ! スマッシュとグラブ!)

訳詞:カニカーニ ぺっちゃんこ

映像との整合性が重視された結果、韻はなくなりました。なお「Smash-and-grab」は「陳列窓を壊してものを盗む」という意味らしいので、プランクトンが受けている「ぺっちゃんこ」な仕打ちとは直接の関係はないようです。
それよりも Google翻訳が「Krusty Krab(カニカーニ)」をちゃんと訳してくれたところに少しだけ感激しました。


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原語:Barg-n-Mart! Grocery cart!(バーグアンドマート! 食料品のカート!)

訳詞:バーゲンマート お店のカート

ほぼ直訳で、韻も継承されています。なお「Barg-n-Mart(バーゲンマート)」はカニカーニ同様にスポンジ・ボブでの固有名詞ですが、これはさすがの Google翻訳もうまく訳せなかったようです。



■4番の歌詞

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原語:C.E.O.s! Gary's toes!(C.E.O.s! ゲイリーのつま先!)

訳詞:CEO 爪がNo

CEOはそのまま。なお、この CEO の映像は一瞬しか映りませんが、よく見るとかなりひどいです。人を召使い扱いして踏み台にしたり、背後のグラフによると給料を減らして利益を得ようとしているようです。そして原語の「Gary's toes」は、映像との整合性を保ちながら韻を踏むために「爪がノー」という大胆かつ意味不明な言葉で訳されています。


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原語:Squidward's nose! Panty hose!(イカルドの鼻! パンスト!)

訳詞:なまけもの かぶりもの

ここは技ありポイントです。訳は原語と全く異なるのに、映像とマッチしつつ韻を踏んでいます。すごい。
そしてやっぱり「Squidward(イカルド)」が訳せる Google翻訳。好きです。


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原語:Rocking chair! Wash 'n' wear!(ロッキングチェア! ウォッシュンウェア!)

訳詞:ロッキンチェア シワなしウェア

原語に倣って、チェアとウェアで韻を踏みたかった結果、「シワなしウェア」という新たな熟語を生み出してしまいました。翻訳担当の苦労がうかがえます。


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原語:Empty stare! Patrick's hair!(空の凝視! パトリックの髪!)

訳詞:なにをした? ワキのした!

原語ではパトリックの腋毛に注目していたのですが、翻訳ではワキの下に変えられました。語呂の良さからでしょうか。後半の「Empty state」は「何をした?」に変えられてしまいましたが、映像がシンプルなので違和感は少ないです。


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原語:Green trees! Sandy's fleas!(緑の木々! サンディのノミ!)

訳詞:緑の木 痒いノミ

ほぼ直訳。それでいて韻もまあまあです。サンディってときどき、獣感が増しますよね。


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原語:Rise and shine! Lemon lime!(立ち上がり、輝き! レモンライム!)

訳詞:おやつタイム レモンライム

レモンライムと韻を踏むための唐突なおやつタイム。ここもシンプルな映像なので特に違和感はありません。


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原語:Outta time! Squiggly line!(時間がなくなって! 波線!)

訳詞:時間がない 仕方がない

韻踏みのために、波線の説明は省略されました。代わりに「仕方がない」となったことで、訳詞の方が高速道路への抵抗の主張を感じる歌詞になっています。


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原語:Take a stand! Hand in hand!(明確な態度を打ち出してください! 手をつないで!)

訳詞:立ち上がれ 手を取って!

ここは意味重視です。韻はなくなりました、ちょっと残念。



■おわり

以上です。
いつも吹き替えを見ていて、パトリックがケチャップのイラストを持っている理由が不明だったのですが、原語詞を確認したことで疑問が解消しました。
リズムやメロディーとの整合性を意識しなければならないので、歌の翻訳はセリフよりも大変そうですね。



参考:原語詞と日本語訳詞のリンク

"Give Jellyfish Fields a Chance" is a song sung by SpongeBob and Patrick in the episode "SpongeBob's Last Stand." It protests the new Shelly Superhighway. SpongeBob and Patrick: Chum Bucket! Sludge bucket! Highway fly away! Lily liver! Pizza giver! Mashed potato! Kelp tomato! All we are trying to say is give Jellyfish Fields a chance! Ketchup bottle! Net and goggle! Toll booth! Rotten tooth! Freeway plan! Toast and jam! Mermaid Man! Garbage can! Citrus fruit! Combat boot! Give a hoot! Gorilla su

餌バケツ 泥バケツ 高速バイバイ 肝臓 いいぞ ピザもいいぞ マッシュポテト 海藻  トマト ボクが言いたいのは クラゲ畑を守ろう! クラゲ網と ゴーグルもって むし歯 いたい 高速だ ジャムパンだ マーメイドマン ゴミの缶 す